2010/03/06

【あさざけ】 朝酒

小和田庄助さんは朝寝朝酒朝湯で身上を壊したそうだ。
朝起きるのが遅いと祖父にそうちゃかされ、
大人になったら庄助さんみたいに放蕩してやろうと思ったものだ。
当時中学生だったのだが。

当時から朝寝と朝風呂を同時にこなせるのは
器用なことだなと不思議に思っていたのだが、
最近になって正しい解釈を知った。
朝寝というのは布団に入って夢うつつではなく、
同じ布団の中でも伴侶を引き込んで
朝っぱらから"貝合わせ"をしていたそうである。

一通り終わると風呂に入ったり酒に酔ったりと、
おいたをしていたらしい。

庄助さんと違い、私の場合だと朝の時間はもっとぐったりしている。
夜通し遊んで銀座線やら千代田線やら乗り継ぎ
家にたどり着く時間というのは世間一般的には心地よい早朝のひとときである。
目に付く風景はすべてが健康的で、
犬の散歩をするお姉さんには一点の曇りもなさそうに思え、
朝っぱらからやっている喫茶店だと、
昨晩のうちに十分な休養をとって
新しい一日を心地よく迎えたさわやかさに、
深夜の馬鹿騒ぎ疲れをそのままひきずって歩いている私は
近づいてはいけないような気すらする。

這いつくばってでも部屋にたどり着いてしまえば
クールダウンする必要もなく泥のように布団と一体化してしまうのだけれども、
せっかく朝の時間に表を歩いているのだからそれももったいないなという
貧乏根性で朝の新鮮な空気の中をよどんだ目をしながら歩いている。

こういうしなくていいような経験を重ねて、
庄助さんの"朝寝"を真似ようと思ってもなかなかできないのに気付かされた。
朝酒であれば夜からの続きで昼ぐらいまで呑むことたびたびであり、
がんばらずともどうにかなる。
朝風呂にしても平日から呑みに出て
夜が遅いと朝風呂をくぐり出社するなんてのも
いつもの選択肢としてあるぐらいなのでなんでもないことだ。
ただ"朝寝"だけがどうにもならない。
そういう場面であっても、朝と呼べる時間は枕と仲良くしていることが多く、
相手との間が深ければ深いほど、
私の体力は前夜のうちに完全燃焼してしまっている。

この話を半世紀年上の友人(私が勝手に友達にならせてもらっている御仁)に
話したところ、君、そんなのじゃいけないよ、下半身に筋肉をつけなさい。
と、えらく具体的なアドバイスをいただいたことがある。

その御仁がまだご子息とご遊学あそばしていた頃、
お供のレディーをこれでもかとばかりに融解し昇華させ尽くしたそうな。
翌朝、すっかりと憔悴しきった御仁が見たのは、
何事もなかったようにシャワーを浴びるレディーの姿。
そこで腹をくくり"朝寝"に挑んだという話を聞かせて頂いた。

あのときはたまげたね、と昨日のことのように話されていた御仁。
たぶん、私が生まれるよりもずっと前のエピソードだろうと想像している。

ろくに運動もしていない私にとっては"朝寝"だろうが"夜寝"だろうが
ハードなスポーツである。
そういうことは体育会系の人間が楽しむ物で、
生粋の文化系の私には休み休みでないとどうにもならない。

そう考えると、庄助さん、連日じゃ体をこわすのも無理はないだろう。

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